水辺の利点を生かした高層住宅の防災対策

■ 質問:港区は地震による津波や地盤の液状化現象は大丈夫ですか? 答え:太平洋で巨大地震が発生しても東京湾は 浅く裾広がりの形状をしているため、港区に到達するときには最悪の場合でも2.45m 程度といわれています。 港区の護岸は5.6m以上の防潮堤と水門に囲まれており、既に耐震補強工事も終わっています。
防潮堤の無いお台場地域においても、道路は全て防潮堤より高い6mに位置しており、極めて安心度の高い地域となっています。
また地盤の液状化に対しては港区が独自に調査を行いましたが、地価の高い港区においては、ほとんどの地域で液状化対策が施されており、 311の時、浦安で発生したような大規模な液状化の危険はありません。


■ 質問:首都直下型地震が起きたとき、どのような事が想定されているのですか? 答え:想定震度(M6.9)では、電気は7日間止まると予想されています。
電気が止まると、建物の基本機能である館内放送設備や非常用エレベー ターや火災報知機が作動しないだけでなく、 ポンプが止まるため水道や トイレも使えなくなります。


■ 質問:震災が起きた時、どこに避難すればよいのでしょうか? 答え:「港区高層住宅の震災対策に関する基本方針」によると、港区内の高層住宅の住民は小学校などの避難所でなく、7日間自室で 居住することになっています。
しかし、行政が港区の住居に全戸配布した防災マップの裏面に記された「避難の手順」によると5分~15分で地上に指定された地域集合場所に集まることになっています。 これは行政の明らかな二律背反です。
もし、高層住宅住民が防災マップの指示に従うと、エレベーターが停止した中、非常階段に1000人以上の人間が殺到し地上の小さなドアを目指す事になる可能性があります。 警察警備課と協議したところ、狭い階段内で将棋倒しが発生した場合、大量の圧死者がでる可能性が高いとの事でした。
震災時には、避難せず、自室で待機することが大切です。


■ 質問:電気が復旧するまでの間はマンションの自家発電機でエレベーターは動きますか? 答え:現在の高層マンションに設置が義務付けられている自家発電は震災を想定したものではなく、火災の消火を目的としたものです。 発電機燃料の備蓄量は消防法の規制により厳しく制限されており、多くの建物では僅か4~5時間しか作動させることが出来ません。
電力復旧までは7日間と想定されていますので、遠く及びません。


■ 質問:水や食料などは、どこで配られるのでしょうか? 答え:現在港区では高層住宅の住民に水や食糧を配給する計画はありませ ん。 港区が策定した「港区高層住宅の震災対策に関する基本方針」 によると電力が復旧するまでの7日間は行政からの援助は一切なく、 水や食料は住民の「自助の領域」と定められています。


最新の高層住宅のように無駄を省いた高密度集約型住居に行政がいうような 備蓄ロッカーなどを設置する空きスペースなどありません。行政の指導に従いたくても7日分の建物内備蓄は根本的に無理があると我々は考えています。


●海には船舶用の燃料が大量に備蓄されています  311の震災時、ガソリンスタンドの燃料は1日で底をついてしまいました。
独自の給油施設を持たない警察や消防ではあわやパトカーや救急車が動かせない事態寸前までいったと関係者から聞きました。
 幸いな事に電気が止まらなかったので、大ごとにはなりませんでしたが、停電すると病院などでは医療機器が動かせず、多くの患者の命に係わる大変な事態が発生します。
 しかし、発電機の燃料備蓄は消防法で厳しく規制されており停電の想定日数には遠く及びません。 電力の復旧まで7日間と予想される中、非常用発電機燃料の調達が防災上の大きな課題となっています。

<実際に機能しなかった都の備蓄施策>  H24年10月、東京都は警察や消防の車両の燃料、及び、都立病院の発電燃料等を確保するため、3億3700万円の燃料費と2300万円の手数料を石油組合に支払い、毎年ガソリンスタンドのタンクを借り受けるという施策を発表しました。 これは276万千キロリットルという莫大な量の燃料を税金で確保し民間販売しないよう規制をするものでしたが、H27年2月27日の新聞報道によると、実際には計画通り運用されていない事が発覚しました。
 保管コストの高い陸上において、新たな燃料確保は至難といえます。

<当法人はランニングストック方式による備蓄>  港区の目の前に広がる東京港は日本最大の水上物流の拠点であり、毎日巨大な貨物船が外国から入港します。これらの船舶への給油のため、東京港には大量の船舶用燃料が流通しており、これらはマンションに設置してある非常用発電機燃料として運用できるものです。
 そして、重要なのは、これら貨物船に給油する小型の燃料タンカーは、すべての燃料を貨物船に給油してしまうと小型タンカーの安定性が損なわれるため必ずタンクに2割程度の燃料を残す決まりがあるのです。
 当法人は、この常にタンクに残っている燃料を震災時に供給してもらう契約を東京港最大の燃料会社(関東タス)と結びました。
 その量は、月末に残す500キロリットルを最小値としており、この量だけで高層住宅50棟が毎日8時間、一週間発電し続ける燃料に相当します。
 東京都のように燃料会社にお金を払って保管してもらうのではなく、ランニングストック(流通備蓄)の活用なので、供給する側にコスト負担はありません。あくまでも地域共助の仕組みとして成立しており、発生するコストは、震災時に使用した分の実費清算のみです。
 また、タンカーの接岸許可が出た2012年10月には、港南のワールドシティータワーズにタンカーを接岸し燃料供給実験を行い、NHKを始め多くのメディアで 日本初と報道されました。 我々は毎年、各会員マンション近くの護岸へのタンカー接岸実験を実施し、住民への周知と運用の課題の洗い出しに努めております。

●<備蓄燃料は劣化すると国が発表した!> 経済産業省では、平成27年に、備蓄燃料の経年劣化の調査を行い、その検査結果に基づき、平成28年7月、驚きの警告書を出しました。

「災害などに備えて燃料を備蓄される皆様へ」
http://www.paj.gr.jp/paj_info/20160222.pdf

衝撃の内容です!

備蓄燃料の使用推奨期限を過ぎると、発電機が燃料が尽きる前に停止するというのです。
使用推奨期間とは
A重油 3ヶ月
軽油  6ヶ月
全ての災害拠点病院で非常用自家発電の燃料として備蓄しているA重油が、なんと、僅か「3ヶ月」といのです。
3ヶ月を過ぎるとセジメントという結晶が発生して、発電機燃料として適さなくなり、故障停止につながる恐れがあると。
3ヶ月ごとに備蓄燃料を入れ替えている病院など聞いた事がありません。
病院によっては、3ヶ月ごと年4回入れ替えると1億円を越えるコスト負担になる病院もあります。
資源エネルギー庁では、6年ほどの保管が可能な酸化防止剤入りの軽油と入れ替えることを提案していますが、消防法でA重油と同量の軽油は保管が許されておらず、価格も軽油引取税が含まれるため高価です。

●<会の考える解決に向けての提案>

  1. 国に対して、備蓄燃料として適した「酸化防止剤を添加した軽油」を新たな引取税免除となる石油製品として流通させるよう強く要望する。
  2. 現在、病院や災害拠点に備蓄しているA重油を3ヶ月ごとに循環させることを条例で定め、備蓄燃料を、日本最大の貿易港である東京港に来航する貨物船の燃料や、火力発電所の発電燃料として消費する仕組みを早急に構築する。
  3. 燃料供給する側の体制として、陸路ではなく、消防法の量的規制の及ばない東京都港に一定量の燃料をランニングストックし、その燃料を震災時に病院などに分配供給する仕組みを構築する。
  4. 海上と陸上との間の燃料の取り扱いに関する消防法の規制の緩和を特区制度により実現する。
  5. 東京都にある非常用発電機燃料を3ヶ月ごとに入れ替えるためには、清掃車並みの数の小型タンクローリーが必要となるので、清掃車を運用している組合などにタンクローリーの購入費用の補助、貸付施策を実施し、備蓄燃料の循環業務を実施する組織を作る。